「日本語学校=悪」という図式は本当か?

芹澤健介『コンビニ外国人』新潮新書(2018)

 概要を以下に述べる。ほとんどの日本語学校が問題ありだという記載があった(p137)。ただの人材派遣会社に成り下がっているような学校や、学生に対して教員数が少なすぎる学校(経営者の搾取)の例を挙げている。2010年に法務省の定めたST比 (教員一人当たりの学生数)を無視している日本語学校が2017年時点で300/600校あるらしい。このような日本語学校の取り締まりは600校を超えた2017年から法務省が行うようになったとある。それに対し、筆者は、「留学生から高い学費を取り、日本語教師を使い捨てにし、一部の経営者が甘い汁を吸っている」という問題に対し、国公立の日本語学校をつくって、地域ぐるみで解決していくしかないという結論を出している。

 読んだ感想として、まずこの本を読んだ人は必ず「日本語学校=悪」という第一印象を抱くに間違いないと感じた。それと同時に、日本語学校の要件の厳格化が喜ばしいことであるという認識が、おそらく世間一般の考えなのだとも感じた。しかしながら、そもそも日本語学校が悪の根源なのだろうか。日本語学校の学費が高いというが、国公立の日本語学校を作ったところで、現在の日本語学校の学費(約70万が相場である)から劇的に安くなるとは到底思えない。

 たしかに、急速に日本語教育機関が増加しているので、筆者が指摘するような悪質な日本語学校が存在することは事実だろう。しかし、就労目的の留学生が多いのも、人材派遣会社に成り下がっているような日本語学校が成立してしまうのも、留学生30万人計画のもと、経済力のない外国人に留学ビザを与え(精査すれば簡単に見破れるはずだが黙認している)、留学中のアルバイトを認めている国策の結果だとも言える。また、法人・ 準学校法人などの日本語学校がある一方で、大半が個人や株式会社などの民間の事業体によって設置されたものである。つまり、民間会社である。今ある既存の制度の枠組みの中で、営利を追求すること自体は当然の結果(予期できた結果)だとも言える。

 日本語学校が悪の根源として話題に上がると、監理を厳しくしろという流れになるが、そもそも民間会社に国が口を出す意味についても考えてほしい。日本語学校の経営は、そもそも入国管理局の判断に左右される側面が強い。留学生の出席率が低かったり、不法滞在率が高かったりすると、適性校でなくなる(過去1年間で、留学生在籍者数のうち不法残留者の発生率が3%以下の場合、入国管理局が学生管理が不適正であると認定すること)。そうなると、ビザの許可が下りたとしても、期間が短くなることがある。また、適性校でなくなると、留学生募集にも影響が出る。留学ビザを許可するかどうかは入国管理局の「裁量」なので、国籍に偏りがある日本語学校は経営が厳しくなる(実際に特定技能が新設された2019年においては、一部の国からのビザの交付率が急激に下がった)。入国管理局が一民間企業に口を出すなら、お金も援助すべきなのにしていない。入国管理局が日本語学校に学生の管理を押し付けてきたという側面もあることを忘れてはならないように思う。

 世間一般では、日本語学校=悪という図式が共有されているように思う。いつ入管が監査に来ても大丈夫なように、常に「証拠」を作成するように日本語学校から指示されている身としては、複雑な心境である。毎日学生に出席率について指導し、毎月出席率不良の学生の報告書を作成し、改善しなければ退学勧告書を発行したり、自宅訪問を行う。 また、一人で病院に行けない学生に付き添ったり、悩みを抱える学生の相談にのったり、進学指導から就職活動の支援まで行う。ここの本書には記載のない日本語学校の一面についても、読者には知っていてもらいたい。

就職活動で仲介業者に一人あたり30万円支払う留学生

 

 1週間28時間の規定を破ってオーバーワークした、あるいはお金がなく進学ができない日本語学校の学生たちは日本に残るために就職活動をする。大半の学生は、N1・2レベルに達しておらず自分で仕事を探すことができない。そこに目をつけた人材紹介会社は「トレーニング」と称して、学生から一人あたり30万くらいのお金をもらって、仕事の紹介をしているようだ。日本語の能力が低い学生には、40万くらい払わないと紹介しないと言っている業者もいると聞いた。お金のない学生は、分割払いをし、就業した後も返済し続けているのではないかと思われる。

 また、困ったことに、就職するためには留学ビザから就労ビザに切り替えなければならない。その手続きが1人でできるほど日本語能力が高い学生はほとんどいない。そのため、一部の行政書士は「就労ビザに切り替えるための手数料」として、仲介業者と組んで、高額な料金を留学生に支払わせているらしい。

 学生からしてみれば、大金を払わなければ就職できないため、職場環境や就労条件などに不満があっても借金の返済のため声をあげられないような人もいることが予想される。また、仲介業者が一求職者から何十万もお金を取ることは、明らかに違法だろう。しかしながら、そのお金を払わなければ仕事を見つけられないというのも留学生たちの現状だ。ただ、厄介なことに、留学生たち自身は、それが問題だと感じていないということだ。ハローワークに行けば無料だと伝えても、むしろお金を払わないとちゃんとした仕事を紹介してもらえないと思い込んでいる。留学生たちが自分たちの置かれている立場を理解できず、気づいても声があげられない今の状況を変えていかなければならない。