澤田晃宏『ルポ 技能実習生』ちくま新書(2020)

 

 徹底的に取材されており、現状の問題点について鋭い指摘が多々。特にベトナムについての理解が私の中で深まったように思う。私自身、日本語学校に勤めて学生と接してきたが、教師と学生という関係のせいか、なかなか学生たちの本音が聞けていないと感じていた。本書は、技能実習生について書かれているが、日本語学校に在籍するベトナム人学生にあてはまることも多いように感じた。

 例えば、本書の送り出し機関は、日本語業界では「留学院」や「ブローカー」などと呼ばれる機関に相当し、構造が似ている(監理団体に該当するものがないだけ)。また、私の勤めている学校でも、留学生の半数をベトナム人が占め、またその大半がアルバイト三昧で、両親が農家と答える学生が多かったことからも、彼らが経済的に裕福な学生ばかりではなないのではと前から薄々感じてはいた(いくら注意しても、1週間28時間のアルバイト時間を超えてしまう学生が毎年一定数存在する)。

 また、進学を断念し、就職を希望する学生も多いが、そのような学生に対し、学校側は特定技能の説明会を開いたりしていた(ただしあまり興味を持っていない学生が多かった)。

 彼らの大半は、日本での就労が目的で、そのために日本語学校の卒業後は専門学校に進学していく。高卒では日本で働くことはできないからだ。また、日本語能力的にN2レベルに到達する学生はほとんどいないため、大学進学を断念し、専門学校への進学を選択する。本書に記載のある月額最低賃金(月約1~2万)を見ていると、日本語学校や専門学校に支払う学費が、彼らにとっていかに高額なのかを改めて思い知らされた。ちなみに同僚のベトナム人に聞いてみると、都市部であれば月10万円ぐらいの収入の家庭も多いらしい。そうだとしても、日本の学費は決して安くない。

 本書を読んだ感想は、送り出し機関や監理団体の中間搾取の実態があまりにもひどいことに驚いた。また、受け入れ企業の大半は中小零細企業で、労働法に疎く、また実習生たちは職場を選べないという構造は非常に問題だと感じた。新設された特定技能においては、自己都合での転職ができるものの、日本語力の高くない外国人が1人で職探しをするのは不可能に近い。前回記載したような、就職斡旋業者に高い手数料を払って頼む人がまた増えてしまうだけだろう(ベトナムでは、地位やチャンスは賄賂で買うものという意識が根強いため権利侵害や不正にきがつかないという記載があったが、以前就職斡旋業者に30万円を支払っていた他の東南アジアの学生においても同様の意識が根深かった)。以下、本書からの抜粋。

技能実習生受け入れの流れ(団体管理型)

本書のp96より

■ベトナム人技能実習生の実態
 3年間で300万円の貯金を目標に日本へやって来る。報酬は大半が最低賃金。東京を例にすると、最低時給が1013円、月額約17万、社会保険をそこから引くと手取りが14万5000円。さらにここから住居費が引かれる。※ベトナムの場合、賃金から控除する家賃の額が2万円を上回らないことを求めている(東京、大阪、京都、名古屋は上限3万円)。実習生が月に使う生活費は約2〜3万円。手取りが11万5000円になる計算。

■送り出し機関とは
 ベトナムの海外労働者向け人材派遣会社を指し、民間の営利企業。

■管理団体とは
 技能実習の監督役。以下、その役割。
①企業に対する定期監査。計画通りに技能実習を行われているかどうかの確認。
②入国した実習生への講習の実施。
③技能実習計画の作成指導。
④実習生からの相談対応。
 技能実習を実施機関の約6割が、中小零細企業で、実習生の95%は団体管理型で受け入れられている。管理団体は許可制で、商工会議所や中小企業団体などの非営利団体に限られる。その85%は、ジッコ(JICCO)によると共同購買事業などを目的にする事業協同組合。その管理団体の許認可権を持つのが、2016年11月28日に新設された外国人技能実習機構。管理団体の収入は、管理企業から受け取る管理費のみ。実習生1人あたり3年間の管理は、100〜150万(36.2%)、50〜100万(33.2%)。1人あたり月平均2〜5万円程度。また、一部の管理団体の幹部は、キックバックとして裏金を享受している。1人約11万。

■人気不人気職種
 人気なのは、残業が多く、屋内の軽作業。例えば、機械加工、水産加工など。不人気なのは、屋外で残業も少ない建設や農家。特に建設は給料に含まれない移動時間が長く、拘束時間が長い。雨などで仕事がない日の賃金は払われない日給制。

■ベトナムの月額最低賃金
・ハノイ市など  442万ドン(2万2100円)
・農村部  307万ドン(1万5350円)
・ベトナム人の平均年収  6636万ドン(33万1800円)※ベトナム労働総同盟(VGCL)傘下の労働組合研究所のアンケート調査2018


■入国前の日本語などの教育
 教育費は、約520時間の日本語教育に対し、事前教育として590万ドン(約3万円以下)と定められている。つまり、手数料と教育費を合わせても約43万円だか、実際は1人あたり平均90万円くらい払っている。多額の借金を負った結果、来日後に失踪するケースも多い。下記、高額になる理由3つ。

理由1.送り出し機関は、総務部、営業部、教育部に分かれていることが多い。そのうち、営業部の中の募集部が実習生の負担費用を釣り上げている可能性がある(募集費用が膨らんで)。候補者が面接に合格すれば1人あたり11万円程度の報酬が入るが、ブローカーへの紹介手数料、交通費などの出費も多い。

理由2.また、送り出し機関同士の競争が激化し、設立に巨額の賄賂を払っていることもある。

理由3.日本の管理団体への裏金。多額のキックバックが玄関で支払われている。
※逆に手数料が低いとこんな安いお金で日本に行けるはずがないと言われることも…地位やチャンスは賄賂で買うものという意識が根強い。

■劣悪な環境でも技能実習生が声を上げない理由
・権利侵害や不正に気づかない。
・仕事を失うことを恐れる。
・周辺コミュニティに帰れなくなる。

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