大半の日本語教師は質が低いのか?

 日本語学校は進学校であり、留学生にN1・N2レベル相当の日本語力を身につけさせることがミッションである。しかし、学生の大半はそのレベルに到達していない。日本語教師の質が低いのではないか?と言われることが多い。本当にそうだろうか?

 非常勤も専任講師も日本語教師養成講座(実習が実施されることが多い)を修了している人が大半で、またこれまで私が出会った教師の大半は熱意のある人ばかりだった。仮に教師の質が低くなっているとすれば、その原因は、教師そのものではなく、賃金の安さと日本語業界の構造にあるように思う。

【重労働・低賃金】
 残業代などほとんど支払われないが仕事量が多く、授業の質を追求するのが難しい環境にあることが一番の原因であるように思う。授業のコマ数に合わせた時給制で低賃金のため、必然的に非常勤の教師の構成比は、稼ぐことが目的ではない60歳以上の人や専業主婦が多くなっている。ただ、退職者で専業主婦であるがゆえに授業の質が低いかといえば、決してそうではない。むしろ、稼ぐことが目的ではないため、熱意のある人が多く、これまでの仕事での経験や子育ての経験などを生かし、学生から人気のある教師も多い。

【授業の質より学生数】
 また、日本語学校が乱立し、留学ブームで多くの留学生が日本に押し寄せる中、利益を追求し、ブローカー経由で募集する学生数を大幅に増やす日本語学校が増えているように感じる。しかし、学生数を急増させると、学生管理が大変になり、また授業も効率性が重視されるため、曜日とコマ数ごとに担当者とカリキュラムが決められ、教師はそれをこなしていくだけになる。授業の質を追求するよりも、大量に学生を入学させ、卒業させるほうが、学校にとって利益になるような構造になってしまっている。ブローカーにお金を払えば留学生が募集できるため、他の日本語学校にはない特色を作ろう!と頑張る学校は少ないように思う。この状況を変えずに、教師の質が低いから研修を必須にしようなどという議論は見当違いだろう。日本語学校の経営者からすれば、日本語教師に専門性は求めておらず、彼らにとって日本語教師はいつでも代替可能な人材なのだ。

【出稼ぎ目的の留学生】 
 教師の質が低いから、留学生の質も低くなるという声も聞く。しかし、そもそも近年急増している新興アジアからの留学生の大半が出稼ぎ目的であり、日本語能力が低い。日本では留学生にアルバイトをすることを認め、留学生30万人計画のもと、大量の留学生の受け入れを進めてきた。日本語が全くできない非漢字圏の学生が来日し、1週間に28時間もアルバイトしながら2年間でN1・N2に合格するのは相当ハードルが高い。アルバイト漬けで寝不足になりながらも、必死に勉強している学生も多いが、漢字の取得がネックになり、初級レベルにとどまる学生も多い。そもそも日本語0で来日し、母語を介せず日本語で授業を受けるような学生は、基礎ができていないため、その後中上級レベルには到達しづらい。

  熱意のある日本語教師ばかりを見てきた私からすれば、教師の質が低いと言われるとどうしても現状についても知ってほしいと感じてしまう。

 なお、理想的な日本語教育は、初級に関しては母語を介して学ぶことだ。現在、日本国内の日本語教育では「直接法」、つまり日本語を日本語で教えることが主流である。中上級レベルであれば効果的だが、初級の場合は母語と比較できないため、理解が不十分になる場合が多く、また発音が悪くなるケースが多い。もし質の良い留学生を確保したいなら、現地に日本語学校を創設し、そこで現地の人を雇って日本語の初級教育を行う。その後、日本へ留学させるというのが一番理想的な流れだろう。あるいは、来日後、初級の授業に関しては留学生の母語を話せる人を教師にし、クラスも国ごとにわければよいが、大量に学生を入学させて利益を上げたい日本語学校側からすれば非効率なのだろう。

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