出井康博『ルポ ニッポン絶望工場』講談社+α新書(2016)

■違法就労する偽造留学生
 ブローカー経由でやって来た留学生の大半(特に近年顕著に増加しているベトナム人留学生)は、母国からの仕送りもなく、自分で生活費や学費をまかなっている。そのため、1週間28時間以内という法律を守らずにアルバイトに明け暮れる。それでもお金に困ったら、不法滞在者への道を選んでしまうことになる。著者は、彼らを「現代の奴隷」だと称している。
 本書に記載のあるとおり、私が勤めていた日本語学校においても、違法就労と知りながら1週間28時間のアルバイト時間を守らないベトナム人留学生が多かった。学費や生活費のためには、働かざるを得ないのだろう。聞いた話では、何年か前なら、多少アルバイト時間がオーバーしていても入管は見逃していたようだ。しかしながら、近年は留学生30万人計画の達成が目前になる頃からなのか、”突然”就労時間の取締りが厳しくなり、ビザ更新ができなくなる留学生が出てくるようになった。おそらく”見せしめ”として、一部の不法就労した留学生を摘発しているらしい。1週間28時間以上のアルバイトをしていたにもかかわらず、ビザが更新できた学生もいれば、できなかった学生もいる。その基準は曖昧で、入管による裁量なのだ。私たちは、ビザが出なかった学生に対しては、「運が悪かったね」という言葉をかけるしかない。

■留学生の実態について取り上げないマスメディア
 よくテレビや新聞では、「現代の奴隷」として技能実習生を取り上げることが多い。しかし、留学生の実態については取り上げられることはほとんどない。本書によれば、それは、そもそも新聞配達が、留学生たちの奴隷労働に支えられているからだと言う。新聞奨学生としてやって来た留学生たちは、学費を負担してもらい、アパートの提供を受ける。その引き換えとして、新聞配達に従事するのだが、そこでは違法就労と残業代未払いが横行しているらしい。近年新聞販売所の経営は、定期購買者の減少と広告の減少で、悪化しており、人手不足が深刻だ。奨学生として来日している彼らは、”途中で逃げ出すことができない”。もし販売所が、1週間28時間を越えた残業代を彼らに支払えば、違法就労を認めたことになってしまうため、法律を逆手に残業代を支払わないというのが背景にある。
 以前、私は「留学生の就職活動の実態」として、仲介業者に留学生1人あたり約30万円を支払って、職業のあっせんを受けていることを問題視し、ある新聞社に取材依頼をした。すると、後日取材したいということでインタビューを受けたのだが、結局記事にはされず、うやむやになってしまった。今思えば、記事にするだけのインパクトがなかったのか、それとも”新聞社としてあえて取り上げなかった”のかはわからないが、著者の指摘どおり、留学生の実態についてマスメディアはもっと取り上げるべきであるように思う。

裁判外紛争解決手続き(ADR)がコンビニで導入

東京新聞2020年11月29日p3

 来年4月からコンビニ業界においてADRが導入されることになったらしい。本部による加盟店への24時間営業や仕入れの強制などが問題になり、公正取引委員会や経済産業省の有識者検討会による改善策の提示要求が背景にある。

■ADRとは?
 ADRとは、Alternative Dispute Resolutionの略で、裁判外紛争解決手続きと呼ばれる。裁判による審議には、お金も時間もかかる。しかし、ADRの場合、費用が無料でかつ手続きが迅速であり、関係者以外にその内容は非公開となる。そのため、近年紛争解決ニーズに的確に対応するための手段として注目されている。

■近年は労働者個々人と企業間の紛争が増加
 労働紛争というと、かつては賃上げや一時金要求などの交渉が中心で、1980年代以降は長期雇用システムを前提とした労働組合と企業による紛争が主流だった。それが、1990年代以降は雇用情勢の悪化・非正規雇用の増加を背景に、いじめ・嫌がらせや賃金不払い、解雇といった契約上の取り決めや法違反に関する「権利をめぐる紛争」、つまり労働者個々人と企業との間の労働関係おいて生じる紛争が増えている。(厚生労働省 平成27年11月26日 第2回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会 配布資料p2参照 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000105384.pdf)。

 今回のように、業界単位でADRが導入されることは喜ばしいことだ。他の業界においてもぜひ導入が進んでほしい。労働者個々人と企業との間での紛争が増えている今、ADRがもっと身近な紛争解決手段として活用されるように、周知・情報提供していくことが今後必要だろう。なお、ADRで解決できなかった場合は、労働審判(裁判よりも簡易な手続き)で解決を図れる。労働審判でも解決できなければ民事訴訟へ移行することになる。

厚生労働省 平成27年11月26日 第2回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会 配布資料p2