特定技能の受け入れが進まない理由

『ルポ 技能実習生』 澤田晃宏 ちくま新書(2020)より

日本が選ばれなくなる未来はそう遠くないかもしれないと感じた。以下、書籍に記載のあった理由6つ。

①海外からの受け入れ体制が整っていないから。また、海外での試験の実施回数が少なく、受入国内でのガイドラインなども整っていないから。日本は送り出し機関を通さない形での受け入れを目指したが、送り出し国としては儲からないため、特定技能に興味がない。特にベトナム。

②仮に技能実習と同様に送り出し機関を通すようになったとしても、N4レベルの日本語と技能試験が必要なため(一から勉強すると最低でも半年必要) 、無試験で日本に行ける技能実習のほうが若者に人気だから。

③国内の留学生は、技能試験に合格しても、国民年金の未納で在留資格の変更ができない人が多いから。

④留学生の多くは、特定技能を滑り止めとしか考えていない。5年しか滞在できないから。

⑤技能実習生からの移行が想定より少ないのは、監理団体に提出した偽造書類の内容を、実習生本人が知らない、あるいは覚えていないから。記載内容に齟齬があると、申請が受理されない。

⑥特定技能外国人を受け入れるには支援機関への登録が必要。しかし過去1年間に失踪者を出しした監理団体は登録できないため、支援機関になれない悪質な監理団体が、企業からの監理費を確保するため、技能実習から特定技能への移行を妨害しているから。

【その他気になった点】

1.今後は当初の想定より特定技能の人数が伸び悩んでいるため、観光ビザで入って来た外国人にも受験機会を与える方向。渡航費用は自己負担…

2.特定技能外国人に対し、支援機関と受け入れ企業は転職支援の義務があるが、責めに帰すべき事由があったときのみ。自己都合による転職は支援する必要はない。外国人の場合、退職後3か月以内に転職できなければ帰国しなければならない。

3.特定技能の新設と留学ビザの交付率低下の関係は、アルバイト目的の留学生は、特定技能に流したいから。

4.技能実習や特定技能からの永住権の取得は実質不可能。

「日本語学校=悪」という図式は本当か?

芹澤健介『コンビニ外国人』新潮新書(2018)

 概要を以下に述べる。ほとんどの日本語学校が問題ありだという記載があった(p137)。ただの人材派遣会社に成り下がっているような学校や、学生に対して教員数が少なすぎる学校(経営者の搾取)の例を挙げている。2010年に法務省の定めたST比 (教員一人当たりの学生数)を無視している日本語学校が2017年時点で300/600校あるらしい。このような日本語学校の取り締まりは600校を超えた2017年から法務省が行うようになったとある。それに対し、筆者は、「留学生から高い学費を取り、日本語教師を使い捨てにし、一部の経営者が甘い汁を吸っている」という問題に対し、国公立の日本語学校をつくって、地域ぐるみで解決していくしかないという結論を出している。

 読んだ感想として、まずこの本を読んだ人は必ず「日本語学校=悪」という第一印象を抱くに間違いないと感じた。それと同時に、日本語学校の要件の厳格化が喜ばしいことであるという認識が、おそらく世間一般の考えなのだとも感じた。しかしながら、そもそも日本語学校が悪の根源なのだろうか。日本語学校の学費が高いというが、国公立の日本語学校を作ったところで、現在の日本語学校の学費(約70万が相場である)から劇的に安くなるとは到底思えない。

 たしかに、急速に日本語教育機関が増加しているので、筆者が指摘するような悪質な日本語学校が存在することは事実だろう。しかし、就労目的の留学生が多いのも、人材派遣会社に成り下がっているような日本語学校が成立してしまうのも、留学生30万人計画のもと、経済力のない外国人に留学ビザを与え(精査すれば簡単に見破れるはずだが黙認している)、留学中のアルバイトを認めている国策の結果だとも言える。また、法人・ 準学校法人などの日本語学校がある一方で、大半が個人や株式会社などの民間の事業体によって設置されたものである。つまり、民間会社である。今ある既存の制度の枠組みの中で、営利を追求すること自体は当然の結果(予期できた結果)だとも言える。

 日本語学校が悪の根源として話題に上がると、監理を厳しくしろという流れになるが、そもそも民間会社に国が口を出す意味についても考えてほしい。日本語学校の経営は、そもそも入国管理局の判断に左右される側面が強い。留学生の出席率が低かったり、不法滞在率が高かったりすると、適性校でなくなる(過去1年間で、留学生在籍者数のうち不法残留者の発生率が3%以下の場合、入国管理局が学生管理が不適正であると認定すること)。そうなると、ビザの許可が下りたとしても、期間が短くなることがある。また、適性校でなくなると、留学生募集にも影響が出る。留学ビザを許可するかどうかは入国管理局の「裁量」なので、国籍に偏りがある日本語学校は経営が厳しくなる(実際に特定技能が新設された2019年においては、一部の国からのビザの交付率が急激に下がった)。入国管理局が一民間企業に口を出すなら、お金も援助すべきなのにしていない。入国管理局が日本語学校に学生の管理を押し付けてきたという側面もあることを忘れてはならないように思う。

 世間一般では、日本語学校=悪という図式が共有されているように思う。いつ入管が監査に来ても大丈夫なように、常に「証拠」を作成するように日本語学校から指示されている身としては、複雑な心境である。毎日学生に出席率について指導し、毎月出席率不良の学生の報告書を作成し、改善しなければ退学勧告書を発行したり、自宅訪問を行う。 また、一人で病院に行けない学生に付き添ったり、悩みを抱える学生の相談にのったり、進学指導から就職活動の支援まで行う。ここの本書には記載のない日本語学校の一面についても、読者には知っていてもらいたい。

就職活動で仲介業者に一人あたり30万円支払う留学生

 

 1週間28時間の規定を破ってオーバーワークした、あるいはお金がなく進学ができない日本語学校の学生たちは日本に残るために就職活動をする。大半の学生は、N1・2レベルに達しておらず自分で仕事を探すことができない。そこに目をつけた人材紹介会社は「トレーニング」と称して、学生から一人あたり30万くらいのお金をもらって、仕事の紹介をしているようだ。日本語の能力が低い学生には、40万くらい払わないと紹介しないと言っている業者もいると聞いた。お金のない学生は、分割払いをし、就業した後も返済し続けているのではないかと思われる。

 また、困ったことに、就職するためには留学ビザから就労ビザに切り替えなければならない。その手続きが1人でできるほど日本語能力が高い学生はほとんどいない。そのため、一部の行政書士は「就労ビザに切り替えるための手数料」として、仲介業者と組んで、高額な料金を留学生に支払わせているらしい。

 学生からしてみれば、大金を払わなければ就職できないため、職場環境や就労条件などに不満があっても借金の返済のため声をあげられないような人もいることが予想される。また、仲介業者が一求職者から何十万もお金を取ることは、明らかに違法だろう。しかしながら、そのお金を払わなければ仕事を見つけられないというのも留学生たちの現状だ。ただ、厄介なことに、留学生たち自身は、それが問題だと感じていないということだ。ハローワークに行けば無料だと伝えても、むしろお金を払わないとちゃんとした仕事を紹介してもらえないと思い込んでいる。留学生たちが自分たちの置かれている立場を理解できず、気づいても声があげられない今の状況を変えていかなければならない。

日本へ留学に来る理由

留学生の多くが中国だ。来日理由を聞くと、以前なら「日本は経済が発展しているから」という理由が多かったが、今は「日本のアニメが好きだから」という理由が大半だ。また、さらに掘り下げて聞くと、中国での厳しい受験戦争からこぼれ落ちてしまった学生が日本に来ていることがわかる。中国国内の優秀な学生は、欧米の一流大学へ留学するか、国内の一流大学へ進学する。日本で言ういわゆるセンター試験にあたる「高考」で、高い点数が取れなかった学生が、留学斡旋業者から「日本は今少子化だから、簡単に一流大学へ入ることができる」と言われて日本にやって来る。 また、「生活環境を変えたくて日本に来た」という理由で日本に来る人もいる。なかには、彼女に振られて傷心を癒すために日本に来たという人もいた。

在校生のスリランカ学生に、なぜ日本に来たの?と聞くと、「オーストラリアよりも日本のほうがビザが下りやすかったから」と返ってきた。また、ネパール学生に同じ質問をすると、「日本はアルバイトがたくさんできるから」と返ってきた。

日本が留学先として選ばれなくなる未来もそう遠くはないだろう。

留学生ではなく、単純労働者

今年日本語学校に入学してくるのは、中国とベトナム人学生しかいない。これまで入学していたスリランカ、ウズベキスタン、ミャンマー、ネパールの留学生に、一切ビザが下りなくなったからだ。留学生としてではなく、単純労働者として日本に来て欲しいという国の意図があるのだろう。 これまで下りていたビザが下りなくなったことで、日本語学校の経営もより厳しくなる。昨年の日本語教師養成講座では、これから日本語学校が隆盛を極めるかのように聞かされていただけに、日本語学校の経営は入国管理局に振り回されるのだと痛感した。

毎月50%以下の出席率の学生は入国管理局に報告し、日本語学校はその学生に対してどのような対応をとったのか、詳細に記録に残してファイルに収めている。入国管理局の職員が突然訪問してきても、学生管理ができていることをアピールするためだ。何日も学生が学校に来なければ、学生の家まで訪問もする。毎日学生には出席率が大切だ言い続け、始業時間が始まると、まだ来ていない学生に教師が一斉に電話をかけ始める光景は異様だ。

さらに、来年からはJLPTの合格率が低い日本語学校は、適性校ではないとみなされるらしい。自分でお金を払って受験をしている学生に対し(選択の自由があるはずなのに)、一番下のレベルを無理やり受験させて、合格率アップを狙うような学校も出てくるかもしれない。

特定技能ビザを作った日本。欲しいのは留学生ではなく、単純労働者。そんなに都合よく、うまくいくものなのだろうか。

特定技能測定試験のテキスト

多くの日本語学校では、進学したい留学生を対象にしている。高卒では、日本で働くことはできないため(ビザが下りないから)、みんな働く資格を得るために、日本語学校で2年勉強した後、さらに高いお金を払って専門学校や大学へ進学する。しかし、進学できる日本語レベルに到達しない学生も多い。親に言われて日本に来たような、やる気のない学生だ。彼らは、決まって帰国はしたくないと言ってくる。そのため、彼らを日本語レベルが低くても入れる学校に入れてきた。学生管理をまともにせず、入学金や授業料を目当てにしているような学校にだ。しかし、そんな学校の問題が明るみになり、ニュースで取り上げられるようになってからは、これまでと同じことはできなくなった。代わりに、今年からは特定1号に流そうという話がでているはずだ。

詳細はまだ把握できていないが、結局特定1号のビザをもらうには、JLPTのN4相当の日本語レベルが求められている。学校の回覧で回ってきた、一般社団法人日本フードサービス協会が作成した「外食業技能測定試験学習用テキスト」 に目を通した瞬間、わたしは唖然としてしまった。思わず、これのどこがN4レベルなのかと声に出してしまった。N1レベルの語彙がごろごろ出てくる、ただ漢字にルビを振っているだけのテキストだった。テキストの作成に日本語教師が介在していないのは明らかだ。これで学習をしたところで、理解できる留学生はいないだろう。

鏡に映る白髪を見て

転職をしてしばらく経ってからある異変に気がついた。なんと、白髪が何本か生えていたのだ。以前よりもストレスフリーになったと思っていたので、これには驚いた。環境が変わると、人は何かしらのストレスを感じてしまうものらしい。

それからというもの、白髪は順調に増え続けている。しかも、右側のこめかみあたりに集中している。なぜこの場所だけなのか、不思議に思っていたが、もしかしたら右目だけで長時間パソコンを見ているせいかもしれない。いわゆる、眼精疲労?もっと目を労わろうと思う。

盲目の人への漢字指導

道村静江『口で言えれば漢字は書ける!』盲学校から発信した漢字学習法、小学館、2010年

今の自分の日本語学校での漢字指導のやり方に満足がまったくできずにいた。そんなときに、盲学校で漢字を指導していたという教員の漢字指導書に行きついた。目が見えない人に、どうやって漢字を教えるのか?そこに書かれていた内容は、十分に外国人にも適用できるものだと感じた。「漢字はパーツ指導だ」と日本語教師の養成講座で教わったものの、結局その意味をこの本に出会うまで完全に理解できていなかったのだと気がついた。

  • まずはカタカナを覚えさせ、漢字の中にあるカタカナが分かるようにする。
  • 基本的な部首の書き順、とめ、はね、はらいなどを正確に書けるようにする。
  • 基本的な部首の意味と形を覚える。
  • 漢字は組み合わせであることを理解させる。
  • 漢字には意味があることを理解させる。
  • 書かなくても、漢字を書けるようにする。
  • 漢字を読んで覚える。
  • 覚えた漢字を使う場面を設ける。など 

上記はいずれもすでに私自身が知っていたことと重なる部分も多い。盲学校での漢字指導と完全に同じやり方で外国人へ指導することはできないと思うが、結局学習対象者に合わせて何が学習上の問題なのか教え方を考え続けない限り、持っている既存知識は無駄になってしまうのだと感じた。また、盲学校の漢字指導が外国人への漢字指導にも使えるように、外国人への漢字指導は、そうでない人にも有用なのだという可能性に気づけた。

エヴァンゲリオンと進撃の巨人

最近、夫に勧められて見たアニメの中でハマったのが、エヴァと進撃の巨人だ。やはり人気のアニメには人気になるだけの理由があるのだと痛感した。夫に感化されて、授業中学生にアニメの話しばかりするようになった自分に気がつき失笑。

外国人と医療機関②

晩ご飯を食べている最中、日本語学校を休んだ学生とやり取りをしていた。「腰を痛めました。起き上がることも大変なのに、バイト先が休ませてくれません。」事情を聞くと、一昨日から腰を痛めて動けない状況らしい。マネージャーに電話したものの、結局休ませてもらえず、無理してアルバイト先へ行ったものの、結局腰が痛くて30分で退勤したらしい。その後、何度訴えても休みの許可は下りないとのこと。そんなアルバイト先なら辞めたほうがいいと言うと、家賃が払えないから無理だと言う。国の両親に現状を伝えてお金をもらえばいいと反論すると、親に迷惑を掛けたくないから言わないと一点張り。

そもそも、なぜ病院に行っていないのか学生に聞くと、現金の持ち合わせがないからとの答え。また、動けないなら、最悪救急車を呼ぶしかないと言うと、そこまでしなくていいと言ってきた。「でも、学校に来れないほど動けないんでしょ?」 この堂々巡りの会話をし続け、ようやく明日病院に行くと本人が言った。トイレに行くぐらいは動けるようだったので、救急車は呼ぶ必要がないと判断した。ただし、アルバイト先が休みの許可をくれないとのことだったので 、仕方なく私がお店に電話をし、学生を病院に行かせるのでとりあえず明日は休ませてくださいと伝えることになった。 学生には、病院で診断書をもらってアルバイト先に提出し、今後いつから出勤できるのかをしっかりアルバイト先と話し合うように指導した。

今回の一件で、休みを許可しないアルバイト先もどうかと思ったが、日本語学校の先生が助けがないと、まともに医療機関にかかれない留学生もいるのだと痛感した。